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第7話 ジャスミンの庭で見つけた少女

Penulis: 美木 猫助
last update Tanggal publikasi: 2026-07-04 21:31:15

 ※

 イアンは部屋に戻るつもりだったが、帝国の悪政を目の前で見たからか、腹が立っていた。

(ああいう奴らに兄上の爪の垢を煎じて飲ませたい)

 ――と苛つきながら足を進める。

 表情は能面顔のお陰で苛ついているように見えないが内面はそうではなかった。

 イアンは、頭を冷やそうと外に出て庭を散策することにした。

 ゆっくりと歩き庭の花でも眺めようと思ったものの、広間から流れる音楽がどこまでもついて来て落ち着かない。

 音楽から逃げるようにひたすら進んで行くと、今までとは違う雰囲気の庭に差し掛かった。

 樹木が生い茂り、周囲は薄暗い。庭というより──森の中だ。しかし、まだ城内で、城壁の外へ出ていないはずだ。

 たとえ、ネロペイン帝国との戦争の話をすると逃げ腰になるサーレン将軍への苛立ちと、そんな彼にどう逆立ちしてもカリスマ性と実力で勝てない自分の不甲斐なさに気を取られていたとしても、流石に城の外へ出たら気付くはずである。

(ここだけ、整備されていないのか?)

 派手に着飾る帝国が、この庭だけを忘れることがあるだろうか。

 ふと、花の香りがイアンの鼻先を掠った。自分の膝丈まで生えた雑草の中に埋もれて、狭い範囲ながらも白いジャスミンの花が広がっている。この香りはあのジャスミンから漂っているのだろう。

(不快感はない、いい香りだ)

 先程まで通った庭に咲いていた薔薇の香りよりも、ジャスミンの甘い香りの方がイアンは好きだと感じた。それに、この香りは皇女達の香水の匂いを忘れさせてくれる。

 あの香りを近くで嗅ぎたいと思ったイアンは、あの場所まで足を進めることにした。

 雑草を掻き分けて、ジャスミンの目の前に辿り着くと、何かに躓いて危うく転びそうになった。

 もう少しでジャスミンの花の上に倒れるところだった、と安堵する。

 大きな石に当たったか、と足元のジャスミンをそっと掻き分けると──花の中で女の子が仰向けで倒れていて、イアンはギョッとした。

 銀髪で髪色と同じ色の睫毛をした女の子。思わずその場にしゃがみ込んで、鼻の下に人差し指を当てると息が当たる。

(人形じゃなかった……)

 よく目を凝らせば胸の上で結ばれた手が上下している。

(何故ここで寝ているんだ?)

「起こした方が良いか……?」

 悩みながら顔をジッと見つめる。

(……動かない)

 規則的に胸は上下しているが、若干肌寒さを覚える夜だ。こんな夜に外で寝ていては風邪を引いてしまう。

 イアンは少女を起こす為に、少女の肩に触れようと手を伸ばした──パチッと眼が開いて、不意を突かれてしまいイアンは尻もちをついた。

 ゆっくりと身を起こす女の子の年齢はいくつくらいだろうか。

 肩まで伸びた銀髪は夜だというのに煌めき、パッチリと開いた琥珀色の瞳を縁取る長い睫毛。

 そばかす一つも見当たらない透き通った肌に桃色の唇。

 爪は綺麗に整えられている。

 痩せていることは気になるが、イアンでも分かるほど顔立ちが整っている女の子だ。シルクの純白のドレスを着ているから、広間に居る貴族の娘だろうか。

 少女と目が合った時──イアンは美しさに息を飲んだ。

 じーっと穴が開いてしまうほど真っ直ぐに見つめられ、己の汚さまで見透かされそうで視線から逃げるようにイアンは俯いた。

 心臓が激しく脈打ち、息が苦しくなるほどの動悸だ。心臓が早鐘のように胸を打ち、その痛みに耐えるように左胸に手を置く。掌に鼓動が伝わり、拳を作る。掌の中にあるメダル型勲章の冷たさのお陰でイアンは冷静さを保つことができた。

「こんにちは! どこか、いたいの?」

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